(山陰中央新報 いわみ談話室初出2012年6月14日)

山陰中央新報暮らし面に「うたの力」というタイトルの特集がある。私はつい先日、高橋真梨子についてインタビューを受けた。「私は高橋真梨子が大好きなだけで、ドラマティックな話は無いですがいいのでしょうか?」と言いながら、あこがれの人のことを語れるのが正直嬉しかった。まずは私の学生時代にさかのぼって質問された。すっかり忘れていたことも、キーワード次第で思い出せるものなんだなあと思った。例えば「オールナイトニッポン」。

当時、学生の部屋は四畳半か六畳一間。隅に小さな流し台がついて、お風呂は銭湯。それが大方の学生の生活だった。それを話したら、私よりふたまわりも若い女性記者は「ヒエ〜、本当ですか?」と驚いた。携帯電話などもちろん無くて、公衆電話を使えば、東京から島根への遠距離だから十円玉が悲しくなるくらいの早さで落ちていく。ダイヤルを回す前に用件を整理しておいて早口でそれを言って切る。めったなことで親と話すことは無く、部屋にはテレビも無い。唯一の友が「ラジオ」だった。深夜放送オールナイトニッポン。吉田拓郎や南こうせつ、井上陽水が最も活躍した頃。話が魅力的で本当に面白かった。しばらくして高橋真梨子が歌う「五番街のマリーへ」がラジオから流れて来た。フォークソング全盛時代。「反抗の歌」から「大人の恋の歌」へ。背伸びし盛りの女子学生にはその曲はとてもお洒落に感じた。高橋真梨子は独特な伸びやかな声で、一本の映画を見ているかのような歌詞の世界を静かに淡々と歌い上げる。何百回聞いたことだろう。聞くたびに「いい歌だわぁ〜」と言わなきゃいられない。
演歌も輝いていたと思う。美空ひばり、村田英雄、北島三郎、三橋美智也、森進一、都はるみ、青江三奈、ちあきなおみなど、その歌を初めて聴いたときは誰もが驚いたはずだと思う。それまで聴いたことがない珍しい声。聴いたことがない珍しい歌い方に。
中学生のとき、音楽の先生が興奮しながら教室に入って来られた。「みんな、今日は聞かせたい曲があるんだ。すごい歌手が出て来たぞ。彼女には絶対音感がある。まあ、聞いてごらん」とレコードをかけてくださった。そのレコードとは、今、世界から注目されている由紀さおりの「夜明けのスキャット」だった。中学生に聞かせるにはおませな曲だったはずだけれど、その曲を聴くたびに先生のあの日の上気した顔を思い出している。そう、あの頃、そういう驚きと興奮が満ちていたように思う。

「音楽」っていいな、と改めて思う。先日、島根中央高校(旧川本高校)の吹奏楽部が復活したというニュースを見た。たった一人の生徒が伝統の吹奏楽部を守っていたとか。すごい…。昭和時代を自慢したけれど、平成生まれも根性あるなと思って。泣けました!