初出:山陰中央新報いわみ談話室

 とうとうショウガ入り紅茶と指先だけ出ている手袋が必需品の本格的な冬がやってきた。北極にいるような厚着の格好がアトリエのガラス戸に映り、それを見るたびにげんなりする。
嫌な季節だ。

今回の個展は4ヶ月間の長丁場。遠方から孫に連れて来てもらったというおばあちゃん。バイト先で休暇をもらい、浜田から三江線に乗り継いでやっと到着したものの、閉館時間が迫り、川戸駅から今井美術館まで必死に走って来たという韓国の学生。『娘が好きだったあなたの絵を見にきました』と、最近娘さんを病気で亡くされたお母さんも来られた。どの人との出会いも、再会も、そこで交わす会話もかけがえのない私の宝物になっていく。

そして、サポートしてくれる友達。可愛い花を生けにきてくれる叔母。『土日祝日全て開館』を決めて下さった今井館長さん。空から『感謝』という言葉が雨あられのごとく降ってくる。

その日の出来事を母に報告すると、決まって『自分ひとりで仕事をしているような顔をするんじゃないんよ。みなさんのおかげなんだから』とくぎを刺される。確かに深夜ひっそりとした部屋で仕事をしていると、ひとりで頑張っているような錯覚を起こすのだ。展覧会は、人間はひとりでは何も出来ないことを、そして人の真心を痛切に感じる場でもある。

父が旅立って2年。そして愛犬テツが旅立って1年が過ぎた。深い喪失感を母とふたりでやっと乗り越えたように思っていたけれど、これだってまわりの人たちからの励ましが大きな力になったからだ。

夕方、母屋に行ってみると母が薄暗い部屋で新聞を読んでいる。
『灯りくらいつければ?』『ひとりで勿体ないもん』
『節約するにもホドがない?やだやだ、人生暗くなるわ!』
母娘ふたりの口喧嘩が普段通りになってきた。一方でふたりぼっちの生活はノンキではある。その分、仕事がいっぱい出来るはずだけれど、それがそうもいかない。集中力奪回の秘策はないものだろうか?

童画展が始まってすぐに、見覚えのあるお客様が来場されて、私におっしゃった。
『佐々木さん。佐々木さんの童画展を5年も待ちましたよ』と。『のろ過ぎますよね?』と照れ笑いした。すると、『いいですよ。待つことだって楽しいのですから』と言って下さった。

私はそんな優しい言葉を意気に感じてもう少し頑張らなくてはと思った。
幾分かの誇りと夢は持ち続けたいと思う。想像してみることほど素敵なものはない。想像は空よりも高く海よりも深く、どこにでも飛んで行けるから。目を閉じて大好きなもの、大切なものを思い出して心のポッケに寄せ集めてみると、けっこういい人生を歩いてきたのかも、なんて思えてくるから。そんなささやかなメッセージを込めて描いていきたい。

今年もどうぞよろしくお願い致します。
2008.1.9