初出:山陰中央新報いわみ談話室

 この前、百歳になる女流画家が、百号の絵をズラリと並べて個展をしたそうだ。これからの夢は、まだまだずっと絵の仕事をしていくことだとか。
百号。これは体に堪える大きさで、百歳の半分の歳の私でも大きな絵を描き出すと、肩が痛い、腰が痛い、ムカムカすると騒ぎ出すのに、百歳という年齢で平気で大作を描く人がいる!
しつこいけれど、回顧展ではなく、この前仕上げた絵を発表するのだから凄いし、百歳で明日の夢を語る気持ちが素敵だと思った。

 私の夢はというと、世界一周旅行…ではない。南フランスで暮らすこと…でもない。思い浮かべるのは三十年後の私。背中も腰も少し丸くなっているけれど、毎日深夜に絵を描く生活は昔と変わらない。昼間は適当に掃除をして、たまに友達とおしゃべりをする。ボーイフレンドはやっぱりいた方がいいな。そしてある日、背広姿がよく似合うさわやかな青年が仕事の依頼にやってきて、こう言うのだ。
『この仕事には佐々木さんの絵がどうしても必要なんです』
そんな童画家でいたい。もしかしたら、小さな夢に聞こえるかもしれないけれど、決してそうではなくて、私には大切な大切な夢。
そんな夢の話を自慢げに語るくせに、江の川高校が甲子園出場したからテレビにかじりついたし、深夜に世界陸上を見たし、江の川納涼大会にはもちろん出かけたし、夢よりも目の前の楽しみを選んだお陰で、今、必死の形相で描くはめになっている。
そこへ、こんなメールが届いた。『この前、ロシアの小型潜水艦が浮上出来なかった時、イギリスの潜水艇が助けに行って無事に浮上したよね。乗組員七人は、遺書を持っていたらしい。潜水艦が浮上した時、子供のように号泣したのは助けにいったイギリスの乗組員だったそうで、日本も助けにいったんだけど、こういう話を聞くと、嬉しいね』

他人の命が助かったことで号泣したその人達の姿は、命の尊さを充分に伝えたに違いない。新潟中越地震の時、命がけで男の子を助けたレスキュー隊の姿もすぐに思い出した。
吉本ばななさんのエッセイの中に『本当に自立したい人は、まずは植物を育ててみるといい』という一文があり、それはたぶん、自分以外の生命に責任を持つことが真の自立、真の大人になるという意味だと思う。乗組員やレスキュー隊の姿とダブった。何という深い言葉だろうかと改めて感心しながら部屋の観葉植物を見た。

しまった!水をあげるのを忘れてた!

ああ、この枯れかかった植物は母に預けよう。『またかね!』と怒られるのは覚悟で。
いろんなことに、しっかりと感動して、いっぱい刺激を受けて、そして絵を描くことが何といっても私にとっての自立ですから、などと口走りながら机に戻った。
またまた自慢げに〜。
2005.8.18