初出:山陰中央新報いわみ談話室

 今日も母から小言を言われた。『女の子なのに、どうして整理整頓が下手なの』と。思わずニッコリ。中年と言われるこの年齢で『女の子』と言ってくれるのは親だけだから、しかられても嬉しい。確かに、そろそろ片付けなければと思っていたのでアトリエを掃除していたら、トンネル壁画のラフスケッチが出てきた。

 九月二十一日、江津高速道路が開通した。一つだけあるトンネルの入り口二カ所の壁画のデザインをしたのだけれど、依頼をいただいた時は、机の上で描いた絵が巨大な大きさに拡大され、ましてや地元の新しいトンネルということになるので、ワクワクしたし、喜びいっぱいの気持ちで描いた。問題は、絵が私の手を離れた後だった。
『あれでよかったかなあ』が始まってしまった。これは私の癖で、おおざっぱな性格のくせに、絵に限ってはクヨクヨと考える。『トンネル』と考えるだけで心が重苦しくなった。

数ヶ月過ぎたころだった。国土交通省の方と一緒に名古屋へ行くことになった。壁画は名古屋のモザイクタイルで再現されることになっていて、仕上がり具合を見せて頂くのが目的だったけれど、心はやはり重たかった。
工場に着くと社長さんが『こっちですけどねえ…』とやや不安げな面持ちで案内して下さった。

うわぁー、私の絵だ!
それは当たり前のこととはいえ、色も線も見事に再現されていて驚いた。何十万個の小さなタイルをわずか二人で並べているのだと知って、また驚いた。感覚的な作業で、感覚は一人一人違うから本当は一人で仕上げたいところだとのこと。まさに職人さんの心意気だ
そして、『佐々木さんの絵が楽しいから仕事がちっとも苦にならないし、出来上がりをこんなに楽しみにした仕事は何十年ぶりかな』と言ってくださり、私の絵への後悔めいた気持ちは、名古屋の空に吹っ飛んだ。そこにいたみんなが笑顔になった。その後、トンネルの壁画は、江津市のベテラン職人さんたちの手にバトンタッチされて完成したのだった。

早速、両親にトンネルの壁画を見てもらいたいと思っている。整理整頓が下手でも絵は描けるというところを見せなくちゃいけないし。
ふと、祖母がもう少し生きていてくれたらと思った。祖母の石見弁丸出しの感想を聞きたかった。きっと祖母のことだ。
『どがあして、あがあな大きい絵を描いたんか?トンネルに登ったんか。えべせえ(怖い)ことをするのう、女の子が!』と言ったに違いない。
2003.10.7