初出:山陰中央新報いわみ談話室

 それにしても暑かった夏。

豪雨で裏の水路が土砂崩れ。小規模ながら水害があったり、その後は、父の新盆を迎えたり、母と私と犬一匹の生活とはいえ、簡単には休ませてはもらえない忙しい夏だった。

『この歳になってまでここまで働かされる年寄りが何処におるんかね?』と母は言い『この歳になってまでここまで母親から小言を言われる娘が何処におるん?』と私は言い、ケンカになりそうになると、犬のテツが慌てて母と私の真ん中に入ってきて、へらへら笑って仲裁する。その仲裁ぶりについ吹き出してしまってケンカはオワリ。
父の不在に時々心細くなりながらも、母と力を合わせて賑やかに過ごしている。

夜には絵を描き、淡々と日常が過ぎて行く中で、出不精ながらたまには出かけるけれど、出かけてみれば、やっぱり楽しい事に出会う。

八月に千田の浄光寺祭りに行った時のこと。おにぎりが美味しいし、親子共演のフォークソングが素敵だし、グループ『坊さんズ?』のパフォーマンスが面白すぎるし、ずっと笑って過ごしているうちにいつの間にか空にお月さんが出ていた。そして楽しみにしていた盆踊りが始まった。

『ん?何?この踊りは?』

敬川地区の盆踊りは、この辺りでは見たことが無いような変った踊りだった。難しそう。まるで酔っぱらっているみたいな不思議な踊り。くどきと言えば、少し沖縄の匂いがするような調子だし、私も習って踊ってみたいなと思った。『そうそう、素敵なんよねぇ、敬川の踊りは』と、そばにいた友達が言った。どうして敬川地区にはあんなに個性的な踊りが伝わっているのだろう?

続いて嘉久志地区の盆踊りが始まった。あぁ、この踊り、覚えがあるある。うちの縁側に座ってくどきを唄っていた祖母。近所の人たちが小さい輪になって踊っていたあの盆踊りだわ!祖母は夜空に突き抜けるような声量のあるいい声だった。『おばあちゃん、唄が上手だったよね』と母に言うと、母も思い出したらしかった。
『そうよねぇ、祭りになると得意のきずしをサササと作ってねぇ』
おかしなことに、祖父や父のことは『言葉』で思い出すけれど、祖母は『味』で思い出す。
1年間ぬか漬けした鯖にショウガや胡麻をふんだんにまぶした祖母のきずし。『なんともいえずうまいきずし』と名付けて売り出したかったなぁ…。

石見には日本の原風景がふんだんにある。でも、カレンダーの絵の取材の時も感じたけれど、石見神楽といい、盆踊りといい、それぞれの地区で伝統文化がしっかりと守り継がれていて、『そこに暮らしているいい顔』が見つかるからこそ絵を描きたくなるのだ。

あぁ、描きたい場面が沢山ありすぎる!

畑のコスモスがやっと咲いて嬉しい。秋の優しい色が早回しフィルムのような格好で広がり始めた。テツが今日も母と私の真ん中でへらへら笑った。どうやら我家では、代々、母娘ケンカが伝統文化?みたいだ。ハイ、仲良くしま〜す!
2006.9.26