初出:山陰中央新報いわみ談話室

 早くしないと朝になっちまうよ、と時計がしゃべりだしそうだ。アトリエで8時間は過ごしているけれど、メールを送ったり、夜食を作ったり、突然お掃除を始めたりするもので、私の夜は短すぎて困る。しかも早朝、小鳥がいい声で鳴くのでその姿を確かめようと外に出ることが多くなった。

最近は池にサギや鴨が遊びに来るようになった。鴨が池の中をジッと見ている。その鴨をネコが狙っている。野生のネコは強いから、『早く池に逃げ込めば?鴨ちゃん』とハラハラ。毎日よ〜く観察していると、小鳥、鴨、サギ、カラス、ネコ、何かルールに則っているようにみえる。ここは遠慮しておこう。この場合は許し合おうね、みたいな調子で。

今、『職場の教養』という本の中の、『江戸しぐさ』という文章の挿絵を描いている。スミ一色でしかも時代物。そういう絵を描いたことがなかったから、実はビクビクで始めた仕事だった。ところが文章が届くたびに勉強になるなあと思うことばかりで、今度はどんな江戸しぐさだろうと楽しみに待つようになった。江戸しぐさとは、人と人とが争わず気持よく暮らすためのルールのようなもので、このところずいぶん注目を浴びている。

今までで印象に残っているのは、まず、◎時間泥棒をしない(人の時間を無断で取らない)。
◎初対面で相手のことを根掘り葉掘り聞かない(人を身分で判断してはいけない)。
◎威張ったり自慢する人を江戸っ子は最も軽蔑した。
◎人とすれ違うときは優しい目線を送る。
◎雨の日に、狭い道ですれ違うときは、お互いに反対方向に傘を傾ける『傘かしげ』(傘からのしずくで相手をぬらさないようにする美しいしぐさ)。
◎混んでいる船に人が乗り合わせてきたら握りこぶしひとつ分腰を浮かせ、横にずれてあげる。
◎人を見たら仏の化身だと思うこと。
◎例えば、足を踏まれた時、こちらこそうっかりしていましたと、踏まれたほうも謝る『うかつあやまり』。

どうやら、自分のことより先に相手のことを考える習慣を身につけることと、ひとりひとりが信念と誇りを持って生きるということが、江戸しぐさの核になっているようだ。

そういえば、数年前、愛犬テツとヨ〜イドンごっこ(真ん中にボールを置いてヨ〜イドンで取りっこする遊び)をしていて、テツに右手小指を噛まれた。全治2か月の重症だった。病院から帰ると、テツが私に身体をぴったりとくっつけてひと時も離れようとしない。『ごめんね』のサインだ。『テツが悪いんじゃないんよ。姉ちゃんがよそ見していたから悪かったんよね』と言って、左手でテツを抱きしめた。これ、『うかつあやまり』だ。江戸しぐさをひとつだけでも実行していたじゃないの、とちょっと嬉しくなった。

もうしばらく江戸しぐさを勉強出来そうなので真似っこして頑張ってみようと思う。
動物たちに負けないぞ!