初出:山陰中央新報いわみ談話室

 裏山の栗が早くも落ちてきている。美味しくなるのはこれからだけれど、毎年イノシシのおこぼれをちょうだいしているようなものなので、今年こそは先回りをして、ちょっとでも大粒の栗を拾わなければ!何といっても母が作る渋皮煮が楽しみだから。カラスも集団で柿穫りに来ている。風圧を感じるほどのすごい羽音。頭の上でその羽音を聞くと結構な迫力だ。

近々「私の仕事〜故郷と共に」というテーマでお話をする事になった。私の緊張癖は一向に直らないけれど、「故郷と共に」というテーマなら緊張せずにお話出来ると思った。

私は石見の人がとても好きだ。こんなに暖かい場所が他にあるのだろうかといつも思う。だから相当シビアな目で私自身を見つめていないと、人の暖かさに埋もれて己を過信しそうで怖いと思う事さえある。

故郷へ帰ろうか、もう少し都会にいようか、私の迷いは長年続いた。帰る時期を探っていたのかもしれない…。
今井美術館での個展で、個展の本当の意義に気づかされた事。そして私が描いてきた絵は故郷での幸せな記憶が中心にあるとはっきりと解った事。そして父の発病。

「帰らなくちゃ、今こそ」と思ったとたんに、一週間で引っ越し準備をして、お世話になった方々への挨拶を済ませ、親友が泣きじゃくる姿を背に故郷に帰った。帰るや否や、アトリエを増築し、大工さんと打ち合わせをしながら、中央新報で主催して頂いた個展会場に通った。全く、あの時の爆発的なエネルギーは一体どこから沸き上がったのかと今も不思議に感じる。
あれからちょうど十年が経った。

私は今、絵描きとして幸せに過ごしていると思う。
東京は私の夢を受け入れてくれた場所であり、貴重な出会いもたくさんあった。今も大好きな魅力溢れる場所だ。でも私の絵は故郷に帰ってから少し変ったように思う。「絵は楽しく描くもの。理屈は無用」という開き直ったような持論は変らないけれど、描くことの楽しさや喜びに拍車がかかった。

「最近、いいニュースが無いじゃない。でもメグさんの絵は見ていると楽しくなるからすごくいいよぉ〜」
「ほんと?じゃあ、もうしばらく描いていようかな?」
「何言っとるん。ずっとずっと描いとってよね」

いくら描く事が好きでも眠れないほどの不安に襲われるときだってある。人の言葉の暖かさに触れたとき、一歩進む勇気が沸き上がるのがわかる。
故郷と共にある私の仕事。うまく言えないけれど、私は年々少しづつ変化してきているように思う。まわりの人たちのおかげで。

栗が木からぽつんぽつんと落ちる音を聞きながら、ここにいる幸せをかみしめている。
2008.10.1