初出:今井美術館ホームページ寄稿文

 車を走らせ桜江町に向かう。緩やかに流れる江川、畑に咲く花々、優しいまあるい山を見ながら、いつの間にかニコニコ顔になっている私。目的地は今井美術館である。後方の座席から、コーヒーが入ったポットと絵本や画集を取り出して美術館に入ると、今井館長さんと学芸員の月森さんがおひさまのような笑顔で迎えてくれる。わ!恵未さんのコーヒーだ、お茶にしましょう、ケーキがあるんよ、と館長さん。既に月森さんはおやつタイムのセッティング中。もちろん人がいなければの話だけれど、そう言えば私、仕事の話で来たのだったと暫くして思い出すのだ。

館長さんと月森さんと三人でお茶を飲み、仕事の話をしている事が何だか不思議に思える。少なくとも十年前は、都会をすっかり引き上げることは、まだ考えていなかったから。
さかのぼって考えると、私は館長さんとずっとずっと以前に出会っていた。私が故郷で個展をした時に、「とってもいい絵ねえ」と言って二点の絵を求めて下さったのが館長さんだった。その後、美術館が設立され、館長になられた今井さんが、美術館での個展を私に提案して下さったのだ。桜江町の伸びやかな景色の真ん中に静かに佇む美しい美術館。しかも重厚な作品が数多く展示されている美術館に私の絵を並べて大丈夫だろうかと心配した。何しろ私の絵は重厚さの真反対。空も海も地もワイワイガヤガヤと賑やかなのだから。
そう言いながら、今までに二度の個展の機会を得たのだけれど、一度目は、絵を描く事の真の意味を考え直し、アトリエを故郷に移すことに決めるきっかけになり、二度目は、童画集「みんな大好き!」発刊記念として、私にとって節目の個展となった。
描くことは苛酷だと感じることがよくある。でも、やっぱり楽しい。画用紙の中に、ガキ大将や泣き虫っ子がひょっこり現れて、あら、こんにちは!と挨拶するその時、幸福感が辺りに漂うのだ。ノートの端っこにわずかな余白を見つけたら何か描かなきゃいられなかった子供時代と私は何一つ変わっていない。絵が得意だった兄の傍で、何かを想像しては夢中で描いて、その度に誉めてもらいたくて兄や両親に見せていた…。そんな無邪気さを一生持ち続けられたとしたら、どんなに素敵なことだろう。
大人になった今も、あの頃の溢れるような想像力が甦ることがあるけれど、残念なことにそれは一瞬のこと。目の前にあるのは、ほんの小さな想像のかけら。でも、きっと私の仕事は、想像のかけらを一つ一つ拾い集めていくことだと思っている。
もしもそれが両手からこぼれ落ちそうになったら、再び、今井美術館に絵を並べてみたいと夢を馳せている。まるで、肉親のような暖かさで見守って下さる館長さんと、しっかりした妹のような月森さんから、『恵未さん、想像のかけらはいつ頃こぼれ落ちそうになるのでしょうかねえ?』と、グサッと言われそうな気がするけれど…?。