初出:山陰中央新報いわみ談話室

「何をしても、間拍子に合わん言うたら。もっとシャキッと出来んかね!」と母から叱られながら毎日を過ごしている。「いざとなればシャキッとするから安心して」と言い返しながらも、やはり私は少々変っているのかな?と最近になって思いはじめた。仕事が心の中を占めると他がすっかり抜け落ちてしまう。「あれぇ、えらいお洒落してどこに行くん?」と母に聞くと「まあ〜、今日は温泉に行こうねと言うとったじゃないの。情けないったら!」と、こんな会話はいつものことで。

 それで最近は、ますます夢中になっているものがあり、今後がそら恐ろしい。夢中なものとは、江津市桜江町に伝わる「火たきスズメ」の絵本制作のこと。「火たきスズメ」は「舌切り雀」の原型であり、桜江町がモデルとされている。佐々木さん(元桜江町の町長さん)から資料として桜江村史をお預かりした。桜江村史に記載してあった「火たきスズメ」は、旧カナで書いてあり、読みづらかったし、少し難しそうに感じたので、まずは現代カナに直してみた。そして改めて読んでみたら、あら、不思議!文に軽快なリズムがあり、ユーモアがあり、暖かくて、書こうにも書けないような見事な「おはなし」で、しかも、ちっとも難しくはなかったのだ。それは石見弁で書いてある。そのせいで、楽しさが倍増しているように思う。読み返すごとにおかしくて吹出し、心がワクワク躍りだす。
なんでも元の起こりは崇徳天皇の時代(1135年〜1139年)都から流された藤原南家工藤の波梨入道と言う人物による…と書かれているけれど、そんな気の毒な境遇にありながら子どもたちのためにおとぎ話を作るなんて、波梨入道さんは、かなり素敵な人に違いない。
とにかく、今やポピュラーになっている「舌切り雀」よりも、ずっとさわやかで面白いお話だ。
正直なところ、今、私はかなり緊張しているけれど、800年以上もの間、地元で語り継がれてきたおとぎ話を絵本に出来る幸福感が不安をはるかに上回っている。他にも「エンコウ祭り」「甘南備寺の鹿」という、心に響くとてもいいおはなしが加わる予定。

出来上がるのはもう少し先だけれど、それを読んだ子どもたちが大きくなって、いろんな人に「うちの故郷にはこんな話があってね」と話してくれるその日を夢見ている。夢中になるあまりに、いろんなことが抜落ちて人様にご迷惑をかけたらどうしようと思うけれど、お許し頂けますように。

「火たきスズメ」に登場するおじいちゃんとおばあちゃんは、いかにも石見人。読めば分かります(笑)。