初出:山陰中央新報いわみ談話室

『君はもうれっきとした中年なんだから体に気をつけなくてはね』
絵の恩師、有賀先生からの愛情あふれる毒舌である。そうだ、私はれっきとした中年になったのだから、そろそろ自身での企画制作の画集を作ろう、と思った。

印刷は地元のK印刷会社に依頼した。私の絵は印刷が難しく、手に負えないからといって断られたこともあるくらいで、いきなり依頼されたK印刷会社は大いに迷惑だっただろうと思う。
さて、文字校正が終わり、いよいよ印刷の色校正に入ると、予想通り、みんなが青ざめた。数えきれないほど何回も色校正が繰り返された。秋には美術館で出版記念展が控えている。間に合うのだろうか…。
K印刷のFさんが『後悔の残る画集を作っても意味がないですから、我々は佐々木さんが納得がいくまでやりますよ』と言ってくださった。
それでも困難さは解決されず、焦った。もはや時間切れかと思ったとき、まるで魔法のように全ページがぴったりの色で仕上がった。

ありがとうございました

何百回言ってもいい足りない気持ちだった。懸命に努力してくださっていたスタッフの方々に少しでも不安を感じていた自分を強く恥じながら。

画集は恩師と今井美術館の今井館長さんの心のこもったメッセージで始まっている。嬉しいな…。できたての本を何度も確かめた。そのうちに、周りの人々の真心に値するだけの絵だったのかと、不意に不安になって眠れなくなった。
何日も何日も過ぎたけれど、肝心な恩師に贈呈本を送ることが出来ないのだ。
師はとことん仕事に厳しい人である。ある日、勇気を振り絞って画集を発送した。
速達で返事が届き、そこには『見事な画集!感動している』と書かれてあった。
手紙を手に廊下を走って父の部屋に飛び込んでそれを伝えた。

父が『よかったなあ、おめでとう!』と言ってニッコリと笑った。思いがけなかった。父があらたまって私に『おめでとう』と言ってくれたのは初めてだった。父は一人娘の危なっかしい生き方を、複雑で時には寂しい思いで見ていたに違いない。私は『おめでとう』という言葉をこんなに嬉しい気持ちで聞いたのは初めてだった。

今、童画集は個展会場で、あったか笑顔の館長さんと、ユーモラスでしっかりした学芸員の月森さんの素敵な宣伝文句によって、少しづつ人々の手に渡っている。

中年とはなんて素晴らしいのだろう。れっきとした中年としての大変さをいくつも抱えながら、一つ一つの苦労と感動が心にしみ入ってくる今がとても心地よいと感じている。
2002.12.11