初出:山陰中央新報いわみ談話室

 桜江町の今井美術館での個展が終わってまだ日が浅い。
三ヶ月間の長期展覧会なので毎日は通えないだろうと思っていたけれど、結局殆ど毎日美術館へ通うことになった。

 館長の今井さんが、たとえ疲労困ぱいの状態でも『大丈夫、これくらいはヘッチャラよ』とニッコリと笑って受付に座り、大雪が降ってもいつもと変わらずに静かな音楽をかけ、お香をたき、いつ誰が来館しても寒くないようにして、見事に心軽やかにお客様を待っておられる。
学芸員の月森さんが、隣で楽しそうにせっせと仕事をこなしている。
仕事は元気よく一生懸命にやりましょう、人に喜んで頂く方法を考えましょうといった具合で、その姿に押されて私は毎日美術館へ行こうと思ったのだった。
私は桜江町のピンクの橋が大好きだ。『ピンクの橋が見えたらね』と、人に場所を説明する時、何だか楽しくなるから。
ピンクの橋を渡ると美術館はもう近い。周辺の景色が四季折々に美しい。何かと便利さが求められる世の中にあって、交通の便が悪い場所にあるけれど、だからこそそこへ足を運ぶ喜び、運んでもらう喜びが何倍にもなると思う。

絵の前で様々な方とおしゃべりしたことが、次から次に思い出される。中でも子どもたちは面白かった。『この本私の宝物にする』と言って、大切なお年玉で童画集を買ってくれた女の子がいたり、実に延べ六時間もの長時間、絵を見ていた女の子がいたり、毎日ドキドキワクワクしていた。
最終日、閉館時間を過ぎてやって来たのは、地元の放課後児童クラブ、なかよしかっぱクラブの子どもたち。『ボク、児童クラブの子じゃないけど、絵が見たかったけえ、連れて来てもらったん』と自己紹介した男の子が『連れて来てもらってよかった』と私に言った。日が暮れて外が寂しげになった頃に聞いた嬉しい言葉だった。
今度の個展は、初日から数日後に祖母が他界し、続いて父が発熱して入院、母は心労でダウンして、心がひどく混乱した状態で始まったけれど、今、この三ヶ月間の意味の深さをかみしめている。たくさんの人の真心に支えられて、私はちょっぴりたくましくなったような気がする。

個展が終了した後、母が『ヤッター、ワタクシ、お母さんはよく頑張りました』と自分を誉めていた。娘の労をねぎらうどころではないのだ。個展の間、家の中が無事であるように必死だったそうで。その時、会場に可愛らしい花を生け続けてくれた叔母を思い出した。叔母もまた『ワタクシ、よく頑張りました、エライ』といっているに違いないと思って、慌ててお礼の電話をした。
父は回復し、いつもの生活が戻りつつある。
父の笑顔で春の兆しを感じている。
2003.3.4