初出:山陰中央新報いわみ談話室

『ちょっと失礼します』と言って、たまにアトリエを横切るタヌキはこの雨の中、何処でどうしているのだろうと思いながら外を覗いたら、軒下で雨宿りをしている『ちゃっかりネコ』と目が合った。深夜のマイ・フレンドだ。ネコの方も、一晩中明かりがついている私の部屋の周辺は何となく心強いのだろう。

八月から来年のカレンダーが今井美術館で発売される。今回の取材場所は、浜田漁港、甘南備寺のしだれ桜、跡市のホタル祭り、石見町の虫送り、温泉津町のよずくはぜ、有福温泉の6カ所になった『変らずに守られてきた』風景が偶然にも並んだ。

石見はいいなと思う。いえ、よく友人と、『昔は花を見ても、ああ咲いているなとしか思わなかったのに、この頃はどうしていちいち心にしみるかなあ?』などと話すけれど、絵も同じで、昔は故郷の風景を描こうとは思わなかった。それがいつのまにか変った。

故郷のどこの家の庭先も気持よく手入れされていて、畑では季節ごとに、ダリアやひまわり、コスモスなどが、野菜に交じって風に揺れている。それが素敵な風景だと感じるようになったのはいつ頃からなんだろう。

飾らず、変らず、いつも通りにそこにある風景。大森銀山が世界遺産に認められたのは、自然を壊さずに町の歴史を守り継いできたことが大きな理由だったと聞いて、すごく納得した。

50号の大元神楽をイメージした絵がもうすぐ仕上がる。大元神楽、石見神楽も守られてきたもののひとつ。私の主題は毛布とお弁当を持参し、朝まで神楽を見る村人達の楽しそうな顔だ。取材に行ったその日の光景は今も新鮮に記憶の中にある。

先日、江津高校の生徒から『故郷に帰って仕事をしている事についてどう感じていますか?』という質問があり、待ってました!とばかり、滑らかに答えた。
『とても楽しいです』と。

もちろん、日常生活では楽しくないこともしばしば起きる。最近のことで言うと、安値だという誘惑に負けて、組み立て式のチェストを買ってしまった。
『腰痛持ちなのに組み立て式を買うなんて、何という馬鹿なん?』と母からさんざん怒られた。深夜、わけがわからない説明書を見ながらズシッと重い板を抱え、一人で組み立てる。顔が火照り、妙な汗が出た。絵を描く時の人の気配を排除した孤独感は大切だけれど、こういう孤独は苛酷だなあと思った。でも、朝までかかって遂に完成した。

『今度ばかりはよく頑張ったじゃない』と母。やれば出来るってことだわ〜と威張ってみせた。

『孤独』という言葉を私はよく使うけれど、好きな仕事をして、いつも通りの風景を見て、何よりも人の暖かさに守られているからこそ『孤独と遊ぶ』ことが出来るのだと感じている。実はエラそうなことは何一つ言えない私がここにいる。

雨が上がったようで、相棒ネコもどこかに行ってしまった。私もたまにはあいつを守ってあげなきゃねえと思いつつ…。