初出:山陰中央新報いわみ談話室

 アトリエのそばに夏みかんの木があり、収穫が終わるとまもなく白い花が咲いて、夢のようないい香りが漂ってくる。朝五時頃には、みつばちが夏みかんの花の蜜を集めにやって来てワルツを踊るように軽やかに花から花へ飛んでいる。池にはいつの間にかカメの親子が暮らしていて、午後になると石の上で甲羅干ししながらピクリともせずに空を眺めている。

 ずいぶん対照的なみつばちとカメさん。人のタイプが、みつばち派とカメ派に分類されたとしたら、私はカメ派に違いないと思う。
『こんな風でも生きていけるよ〜』と言っているようなカメに親しみを感じるからだ。

人は千差万別。私は私らしく生きていけばいいのだけれど、絵を描いている自分の姿しか見えないことに首を傾げ、考え込んでしまう。絵を描いて生きる気持ちには迷わないのに、生きかたには迷う。すごく迷う。
それで、ちょこちょこ迷うわりにはちっとも変わらない私が今日も生きている。でも、私にもささやかに変化が訪れた。
それは、お菓子教室の生徒になったことで、キッチンスタジオをオープンされた奈々子先生のオリジナルケーキが大好きだったので、ぜひ習いたいと思ったのだ。何事もまずは格好からだと思うので、友達に『大草原の小さな家のお母さんが着ているようなエプロンを作ってね』とお願いした。
その後、母が『めぐみがケーキを作ってくれるなんてうれしいな。台所を直そっかな〜』と突然言い出して、翌日には大工さんの仕事が始まったからびっくりした。ヒラヒラエプロンとリフォームした台所。格好だけはバツグンに整った。
母が私に理由を付けて、以前から気になっていた台所を電光石火の早業で直したんだわと思いつつ、仕事の合間に『そうだ、ケーキを焼こう!』と深夜に台所をウロウロするというニューバージョンの私が、今、何となくうれしい。

母は今日も庭の草取りをしていた。今、入院している父が退院して帰った時、父が大好きないつもの庭を見せたいと思って頑張っている様子だ。
私はその日までにケーキ作りの腕をみがこう!『うまいなあ』と父に言ってもらいたいから。
その日の光景を絵にしようかな。いつもの木々と、うれしいみんなの顔を。もちろん、うちのやんちゃ坊主、犬のテツも忘れずに。
2004.6.15