猛烈な残暑の中、三隅町のマスウミハートというアジア輸入雑貨店でコンサートが開催された。叔母がそこのオーナーと親しいことから、じゃぁ、行ってみようかなということになり、私の友達と帰省中の彼女の娘も連れ立って出かけた。

海を背景にしたテラスがそのステージ。夕暮れになると少し風が吹いてきた。
繊細な雰囲気のある男女がステージに現れ、ほどなく演奏が始まったけれど、その細めの身体からは想像出来ないような力強い、そして優しいメロディーに驚いた。
段々と暗くなり、あたりに沢山ロウソクが灯された。いつの間にか海では漁り火が光る。風が心地よく吹き、演奏が静かになると波の音が聞こえるのだ。自然が最高の演出をする中でアコーディオンとウッドベースの音が泣けてくるほど切なく流れた。極上のひと時。
いい時間だった。

『来て良かった!』
後ろに座っている叔母にお礼を言うと叔母も嬉しそうに笑った。

友達と彼女の美しい娘も帰りの車中、ずっとほんわかと笑っていた。

 

 

 

元気よく『ただいま〜』といいながら我家の居間に入ると、母は既にテレビを付けっぱなしで寝ていて、テツはと言えば、『よくも僕を置いて行ったね』と恨みがましい目つきで私を見ている。『テツ、帰りましたよ』と言ってもびくともしないでふて腐れている。いいわよ。そうやってずっとふて腐れていなさいよ、と言ってこっちもテツを無視した。
夜も更けて、いつもなら深夜に仕事をするところだけれど、疲れて、テツのそばでうたた寝をした。な〜んか腕が重たいなぁと思って目を覚ますと、いつの間にかテツが私の腕枕で眠っているではないの。あらまっ、と言うとテツの目がぱちっと開いた。へへへとテツが笑う。愛おしいなぁ〜テツ。

あなたのような愛らしさが私にもあれば私の人生もうちょっと変っていただろうにねぇ。

テツは13歳。老犬だ。今では散歩もやたらにゆっくり。テツはその日の散歩コースをどうしても自分で決めたいようで、三叉路に来ると立ち止まり、右に行こうかな左に行こうかなと長い時間考えるので、辛抱強くそれに付き合うのも大変だけれど、その考え中のテツの後ろ姿を見るたびに愛おしくて仕方が無いのだ。
ゆっくり同士、気長に生きましょうね、テツ。